日本での幸せライフレシピ
会社のテト(旧正月)
ベトナム最大の年中行事、テト(旧正月)が目前です。テトはもっとも重要な年中行事の1つで、日本同様、多くの人が帰省し故郷でのんびり過ごします。それでは仕事場ではどんなテトをどう過ごすのでしょうか、今回は会社のテトというテーマでお送りします。
ベトナムは日本に比べ、祝日が少ないほうです。
◇旧正月のテト
◇旧暦3月10日のフン王の命日
◇4月30日の南部解放記念日
◇5月1日のメーデー
◇9月1日の建国記念日
と、これがすべて。稼働日が多いのは経営者にはうれしい点ですが、働く側にとっては祝日が待ち遠しいのが本音といったところです。
今年は新暦2月1日が、旧暦1月1日となります。ベトナム労働傷病兵社会省が定めた今年のテト休みは1月29日~2月6日まで。このように毎年、1週間前後は休日として設定されます。これほどの長期連休は1年を通して後にも先にもないので、ベトナム人はテトを指折り数えて待ちます。
街も人もテト一色に
先に「テトを指折り数えて待ちます」と書いたのですが、じつは指折り数えている途中、つまりテトの1~2週間前から、街も人も会社も雰囲気はテト一色になっています。
オフィスにも金や赤のテト飾り、枝ぶりの良い桃の木や黄色い花が咲くホアマイ、キンカンの木がいつの間にか登場。営業社員はこぞって顧客へのお歳暮を準備し、挨拶まわりに大忙しです。
このお歳暮がなかなか豪華。高級菓子やお茶、ワインなどがセットになった、ひと抱えもあるカゴや箱入りのギフトセットが客先から届きます。なかにはオリジナル卓上カレンダーや干支などの置物を贈って差別化する会社も。「カレンダーのデザイン、今年は凝ってるね~」「平凡なギフトだけど、ワインは高級だね」。テトギフトのちょっとした品定めも、ベトナム人社員たちの楽しみのようです。それだけにテトギフトの内容は、送る側のセンスも問われるものとなります。
欠かせないテトボーナス
そしてテト前のメインイベントが、テトボーナスの受け渡しです。
ベトナムにあるほとんどの会社は、社員に対し現金か現物で賞与を支給します。ハノイ市の調べでは今年、同市の外資系企業で420万~3億2200万VND(約2万1000~163万円)、ベトナムの民間企業で370万~4億VND(約1万8700~200万円)のテトボーナスが支払われたそうです。
「急に忙しくなっちゃってね」。テト明け、日本食店に行くと店主がぼやいていました。テト休暇前後、スタッフの退職が相次いだらしいのです。じつはこれ、ベトナムでは割とよくある光景なのです。
ボーナスをもらって、少し充電してから、より条件の良い会社に移ろうとする行動パターンはどこの国でも同じなのではないでしょうか。とくにベトナムは日本のように長年勤務することが必ずしも美徳ではなく、雇用も豊富なので、より条件の良い会社、より自分に合った職業を求め1~3年ほどで会社を移る人が多いのです。
テトボーナスは経営者からすると1年間貢献してくれたことに対するねぎらいであると同時に、有能な社員の流出を防ぐ側面もあるようです。
テト休みは絶対
日本では昨今、正月でも営業する店が増えていますが、ベトナムはほとんどないと考えて良いと思います。都市部も車や人通りがぐっと減り、シャッター街と化します。それは会社も例外ではありません。
とある外資系電子メーカーの駐在員から聞いた話です。この会社では、受注増を受けてテト中の稼働を決定。休日、しかもテト出勤ということで特別手当を大幅上乗せすると宣言しましたが、社員は数百人いるうち片手で足りるほどしか来なかったそうです。ベトナム人にとってテト休みは、手当と天秤にかけても勝るもののようです。
テトはベトナムに関わる仕事をする以上、外資企業だから知らぬ存ぜぬで無視することはできない最重要行事です。単に休みを与えて終わりではなく、会社運営にも関わる部分なので、最初はベトナム人社員から話を聞くのも良いかもしれません。
◆トップ写真:テト用品をそろえる商店(ハノイ旧市街)
【参照】テトボーナス支給
https://www.viet-jo.com/news/economy/220104182722.html
あさき・ともみ 秋田県生まれ。2000年からライター、韓国語翻訳・通訳、日本語教師と、言葉に関連した仕事に携わっている。2012年からハノイ市に居住。ベトナム航空機内誌「ヘリテイジ・ジャパン」への執筆や編集など活動を続けている。